一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~
 それだけが救い。
 私は先輩たちの傷つく顔を見たくない。
 
 ――恩未(めぐみ)さんにだけ、相談するとか?

「生地のサンプル届いた?」
「まだです」
「確認して!」
「はい。すみません」

 でも、忙しそうだ。
 どうしたら、いいのだろう。

「お先に失礼します」
琉永(るな)ちゃん、お疲れさま~!」
「暗いから気をつけて帰ってね」

 ぺこりと会釈をし、事務所を出る。
 
 ――結局、誰にも言えなかった。

 事務所のガラス窓に書いてある『Fill(フィル)』の文字を見つめた。

 ――私にもっと知識とセンスがあれば、言われた言葉の意味がわかったはずなのに。

 明日、紡生さんと恩未さんが揃っている場所で、今日のことを言おうと決めた。
 私一人の胸のうちに抱えておくべき言葉じゃない――そう思った瞬間、背後から声をかけられた。

琉永(るな)さん。行き違いにならなくてよかった」
乾井(いぬい)さん……」
啓雅(けいが)でいい。一応、婚約者だ。名字で呼びあうのはおかしいだろう?」
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