一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~
「どうして、けん玉で世界を目指すんですか。ここはデザイン事務所ですよ。恩未さん……。早く起きてこないかな」

 そろそろ紡生さんの面倒をみてくれる人が必要になってきた。
 自由人な紡生さんをコントロールして、お世話しているのがパタンナーの恩未さんだった。
 恩未さんを探すと、自分の机の下で毛布にくるまって眠っていた。
 眠っていても、眉間に皺を寄せたままで、顔つきが険しい。
 私が不在の間の苦労がしのばれた。

 ――お疲れ様です。恩未さん!

 恩未さんを思い、目じりに浮かんだ涙をそっとぬぐった。
 死屍累々。
 そんな言葉がぴったりだ。
 事務所内の机の下で眠るパタンナーやデザイナーが数名。
 その苦労のおかげか、トルソーに素敵な服のサンプルが並んでいて、展示会が今から楽しみで仕方がなかった。
 シンプルだけど素材もしっかりしていて、さりげないデザイン。
 丁寧な縫製、肌に触れた時、不快感のない布――これこそ『Fill(フィル)』。
 気づいたら、クローゼットから選んで、何気なく着てしまっている服は、それだけで特別。
 着心地がいいから、無意識に選んでいるのだ。
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