一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~
 恩未さんはトレードマークのメガネとスーツ、そして、仕事中だったと思われるエプロン姿――徹夜で疲れて、そのまま眠ってしまったのだと思う。
 ズレたメガネを指で直し、ぼさぼさの髪をまとめ、少しずつキチンとした恩未さんへ近づいていく。
 でも、スーツのシワだけ直せない。
 スーツが大好きな恩未さんが、スーツのシワに気づき、大きなショックを受けるだろうということは予測できた。
 危険を察知して、奥のミニキッチンでお湯を沸かす。
 眠っている他の人達のためにも多めに。
 これで全員、目を覚ますだろう――

「ぎゃっー! 私のスーツがっー!」

 ――恩未さんの悲鳴が、事務所内に響き渡った。
 心の中で合掌した。

「私が作った一点もののスーツがシワに……」

 恩未さんのスーツは、イギリスのスーツ生地専門ブランドで、自分で生地を選び購入して作ったもの。
 完成したスーツのために、パーティーを開いたとか開かないとか……それくらいスーツが大好きなのである。
 シワができた部分を見つめ、固まっていた。
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