政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 それには槙野もショックを受ける。
 つまみを取ろうとした箸の手が思わず止まった。

 槙野にとって園村の印象は一昔前の剛腕社長、という感じでやや強引なことは否めないけれど、とても面倒見がよい人だということだ。
 自身が大きな会社の社長であるのに、若い経営者の声を積極的に面白がって聞いてくれたりアドバイスしてくれていた。

 そして、取引先を何度も救ってくれた恩もある。
 あの時は『損だなんて思わない。いいものは生き残るべきだ。君たちは必ず俺に損はさせないと思っているがな』と笑った。

 槙野は園村の采配を身近で見ていることも多く、こういう人物になりたいと思ったものだ。

 槙野は箸をおいて、猪口に口をつける。
「元気そうにみえたがな……」
「そうだな」

 しかし、最近会っていないのも事実だった。
 お互いが忙しくなってしまったこともあるし、会社が大きくなったり、槙野たちが経験を重ねたこともある。

 それでも経済界関連の集まりがあると、よく気軽に声をかけてくれて話をしてくれた。
 豪快な笑顔の似合う人だ。

「園村ホールディングスの仕事をお前に頼みたい」
「どういうことだ? 後継は?」
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