政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「今までワンマンだったので、部下が育っていないんだそうだ」
 片倉の眉間にしわが寄っている。

 片倉はいつも槙野以上に冷静だから、こんな風に表情を変えるところを見たことがない。

「子供はいないのか?」
「お嬢さんがいるけれど、……箱入りなんだ……」

「はあ⁉︎ そんなこと……」
 言っている場合か?と言おうかと思ったが、そんなことは言っても仕方がない。

 それに大きな会社であれば、後継は子供でなくても構わないのだ。
 優秀な部下さえいれば。

 それがワンマンだった園村の場合はいなかった、ということなのだろう。

「そんなの今の役員たちが納得するのか?」
「今の役員も自分の会社がなくなることは怖いだろう。手配済みだ」

 どうやったかは聞きたくないけれど、取締役会での承認も得られるように手配済み、ということなのだと槙野は察した。

──こわ……
 こんな時でも表情の変わらない片倉に、槙野は時折背中が寒くなることがある。

 人の考えの数歩先を読み、手を打っていく。
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