政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 そう言って、槙野は文句の付けようのないスマートな仕草で店員を呼んだ。

「ここのテーブルは僕がチェックする」
 槙野はテーブルのみんなに向かって、にっこりと魅力的に笑う。

 席の女性達がザワめいた。
「いいんですかぁ?」
 媚びたような高い声。

「もちろん。大事な社員だからね。園村さんは連れて帰るけれど、皆は楽しんで」
 槙野は浅緋の肩をやや強引に抱いて、その場を後にする。

「園村さんっ! ごめんね、考えなしで」
 その場にいた女性の1人が顔の前でごめんねっ!と合掌しているのが見えた。

 浅緋はそれにも笑顔を向けている。
「いえ! こちらこそ、ごめんなさい」

 こちらこそ、か。
 考えなしだったのはお互い様、というところかな?

 個室を出た後、浅緋がそっと槙野から距離を置いたのが分かった。
 別に怒るところではないけれど、自分は庇ってあの場から連れ出したのだし、そんなあからさまに離れることはないんじゃないかと、少しだけイラッとしたのは間違いない。

「なんだ、その態度は」
「あの……私、ごめんなさい」
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