政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 通常は金融機関が行うような業務をしている片倉の会社なのだ。
 大きなお金が動くこともあるだろうし、その緊張感や繁忙度は計り知れない。

「それでも、朝は一緒に取ろうって言ってくださってて、一緒に食べるんです。それで、一緒にキッチンに立ってお食事を作りながらお話したり……パンが美味しいね、とか昨日のが美味しかったからまた買ってこようね、とか……」

 とてつもなく忙しいはずなのに、朝から一緒にキッチンに立ってくれる婚約者!

 素敵すぎでしょ!はい!愛され決定っ!

 そう思ったのに、浅緋の綺麗な茶色い瞳にみるみる涙が浮かぶのを見て池田は焦った。
 浅緋ちゃーん!?なんで!?

「どうしたの?」
「私、嫌われてしまったのかも知れません」
 そう言って、浅緋はぽろぽろっと涙をこぼす。

 い、今の話のどこに嫌われる要素あったの!?

 浅緋にしてみれば、池田の反応を見るに、どうやらやはり普通は結婚が決まっている男女の間柄なら、通常、寝室は一緒なのだと察した。

 口数は少ないし、コミュニケーションをとるのは下手くそだけれど、浅緋は察する能力が低い訳ではないのだ。

 片倉はきっと2人の時間が合わないことも考慮して、浅緋に部屋を用意してくれたのだろうと思う。
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