政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 優しいと思うのだ。
 優しいのに悲しいのはどうしてなんだろうか……?

 池田は、本当はどうして浅緋が嫌われてしまったと思ったのか理由を聞いてみたかった。
 けれど、お昼休み中のことで時間がなくて尋ねることができなかったのだ。

 涙を流してしまった浅緋のお化粧を直して、職場に戻すのが精一杯だった。

 そして、浅緋がお昼に職場に戻ると、今度は役員の一人に呼ばれていると聞いた。
 浅緋は少し沈んだ気持ちのまま、役員の部屋に向かう。

 ただでさえ落ち込んでいたのに、取締役に急きょ呼び出されたのだ。

 会社の事は分からないから、弁護士や税理士、それから片倉や槙野に一任しているはずなのに、こんな風に呼び出される意味が分からない。

「浅緋さん、どうぞ座って」
 役員はにこにことして、役員室のソファを浅緋にすすめた。

「はい」
 今回、浅緋を呼び出した取締役部長である久保は、順当に昇進すれば、次は専務か副社長になるのでは、と言われていた役員の一人だが、今はこんな状況でもあり人事は凍結されていると聞いている。
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