政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 その後のことは思い出すと、顔から火が出そうだ。片倉はとても優しく浅緋に触れて、そうして、唇が重なったのだ。

「じゃあ怒ってはないんだろ」
「え?」

 でも今朝はいつもとは違ったのである。
 朝、顔を見ることができなかったのが、こんなにつらいなんて思わなかった。

 片倉は浅緋に黙って早くに家を出てしまった。そんなことはこれまでの2週間の間ではなかったことだ。

 それによって、浅緋はとても悲しかったし、嫌われてしまったのかも、と思うとどうしたらいいのか分からないのに。

「片倉のあんたに対する気持ちは自分で聞けばいいだろ。俺もそんなのは知らん。けど、片倉が怒っていない、と言っているのならそれは間違いのない事だ」
 槙野はそうキッパリと言い切った。

「まあ、怒っているから、怒っていますと言うことはないだろうが、怒っていないと言えばそれはそうなんだろ。あんた、あいつが怒っているところ知らないだろ。片倉はなあ、怒るとむちゃくちゃ怖いぞ。むちゃくちゃ怖かったか?」

 そう言われると、そこまでではなかったような。
 肩を落としているようには見えたけれども。

 でもそれももしかしたら、浅緋が片倉をガッカリさせてしまったことだって、考えられるのだ。
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