政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 ただ、いろんな感情がうまく処理しきれていないだけで、浅緋に対して怒るなんて、考えられない。

 どうやって伝えたらいいのか、自分の感情も整理できない。

 そして、片倉を見てくる浅緋がまるで包み込むようで優しくて甘くて、癒されるようで……ぐちゃぐちゃになっていた感情さえ、その表情の前には何も及ばなかった。

「慎也さん……」
 その声に、気づいたら唇を重ねていた。

 こんな風にキスするつもりはなかった。

 もっと、きちんと浅緋の心の準備ができるのを待って、キスをしていいか聞いて、それに浅緋が甘い声ではい、と肯定の返事をもらったときにするつもりだったのだ。

 こんな感情のおもむくままにキスしてしまうなんて。

 浅緋は驚いたように、目を見開いていた。
 無垢なその表情が片倉の胸に刺さる。

 もっと……もっとしたい。
 貪るように重ね合わせて、蹂躙するように奪いたい。

 一度唇を重ね合わせたら、ただ飢餓感のようなその気持ちが膨れ上がっただけだ。
 こんな感情、浅緋に知られたくない。

「すみません……もう、しません」
 かろうじて言った言葉を、浅緋はどう思ったのか確認することもできず、そっと自分から浅緋を引き離して、片倉は部屋に入った。
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