政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「そんなこともあろうかと思って、ドレスについては差し出たことかと思いましたが、ご用意させていただいています」
 片倉は軽くため息をつく。

 言い訳すらさっさと封じられた。
 こんな時にでき過ぎる秘書がいることがありがたいような、面倒なような気分だった。

 しかも、今回は取引先の大きなパーティなのだ。欠席するわけにもいかない。

「準備はどこで?」
「ホテルの方にお部屋を用意させてただきました。先立って着替えもお届けしてあります」

「ありがとう」
 長野はいいえ、と言ってにっこり笑った。

 嫌われているかもしれない、と思うのに、浅緋が華やかな装いなのだろうと思うと見たいという気持ちは抑えられない。

 つくづく自分はどうかしているのかもしれないと片倉は思う。

 自分の気持ちになかなか形をつけられないまま、仕事に向かっていたところ、片倉の携帯が着信を知らせた。

 画面には『槙野』の文字がある。
「はい、片倉」
『おお、機嫌悪いな』

「電話とは珍しいな。どうした?」
『役員絡みで、お嬢にちょっかい出してる奴がいる。』
< 134 / 263 >

この作品をシェア

pagetop