政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 きゅっと大きな片倉の手で自分の手を包み込まれて、覗き込まれるその表情もとても真剣で、浅緋はドキンとしてしまった。

「園村さんに浅緋さんのお話を聞いて、写真を見せていただいていました。あなたはこの桜の木の下で笑っていた」

 そうして片倉は桜の木に目線を向ける。

「その時、園村さんはあなたを大事だから信頼できるものに託したい、と言ったんです」

 写真を見ていたから、浅緋と出会う前から好ましく思っていた、ということだったんだ、と初めて知った。
 確かに父は、浅緋のことをいろいろと話しているなあとは思ったけれど。

「僕が嫌なら諦める、と言ってくださっていました。園村さんは選択する余地を僕に下さっていた」

 そんな経緯があったなんて、浅緋は全く知らない。
 父らしく、父が勝手に決めて片倉はやむなくそれに従っているのだろうと思っていた。

 包み込まれている手がとても温かくて、浅緋を覗き込む顔がとても真剣で、真っ直ぐな気持ちが浅緋に自然に流れ込んでくる。

「浅緋さん、僕はその時あなたがほしい、と思ったんです。会社のこととは関係なく。この桜の下で見せていた屈託のない笑顔を僕に向けてくれないかと思っていた」
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