政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「え……あの? そんなことが……」
「あなたは僕と初めて会ったのが、ご自宅にお伺いした時だと思っていますね?」

「ええ」
「もっと前に出会っているんです。その時にはすでに僕はあなたをお慕いしていましたよ」

 少しだけ得意げな、それでいて口元は嬉しそうに微笑んでいて、とろけそうな表情を浮かべる片倉に、浅緋は戸惑うばかりだった。

「あの、私政略結婚なのかと……」
「浅緋さん、冷静に考えて?」
 苦笑している片倉が、浅緋に柔らかく首を傾げる。

「園村ホールディングスはおそらくあのままでもなんとかなりましたよ。大きな企業ですから。それに僕に政略結婚は必要ありません。自分で充分やっていける。お飾りの妻も僕にはいりません。園村さんの余計なお節介だったんですよ」

 片倉には園村が『バレたか! でも上手くいったんだから良かっただろう!』と笑う姿が見えたような気がした。

「お父様ってば……」
──では、政略結婚ではなかった?

 父の父らしいお節介だったと?
 そして、片倉は浅緋に浅緋が想うよりもっと早くから想いを寄せてくれていた?
 そう思うと浅緋の瞳が少し潤んでしまう。
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