政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 そんなの、とてもドキドキしてしまう。

「っ……わ、分かりましたからっ」
「あの時は嫉妬に駆られて、あなたを誰にも渡したくないという気持ちでキスしたんです」

 だんだん体が密着していって、浅緋は片倉に包み込まれて、切り取られたような空間の中で果てしのない安心感がある。

「だからね、やり直してもいいですか?」

 視界も香りも身体も、片倉に包み込まれてしまっていて耳元でこんな風にささやかれて、すべての感覚をもってかれてしまっていて鼓動が早くて、もう浅緋には何も考えることができない。

 片倉でいっぱいになって、満たされてしまっている。

 浅緋にはこんな風になったことがなくて、どうしたらいいのか分からないのに、今、何か聞かれている。

──いいですか?って何を?

「いいですかって、何をですか?」
「キスしてもいいかなって聞いているんです」

「慎也さんっ……」
「はい」
「私どうしたらいいのか分かりません」

 浅緋の頭の中にあったのは困ったときは困っていると言え、という槙野の言葉だった。
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