政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「じゃあ、これだけ答えて。僕とキスするの、嫌ですか?」
 浅緋はそれだけを考えて首を横に振った。
 嫌なわけがない。

「じゃあ、キスしていい?」
 こくりとうなずく。
「浅緋さん……」

 とても、甘い声がして、片倉が浅緋の頬に手を触れる。そうしてそっと顔を仰のかせた。

 まるで、すべてのパーツが計算されつくして配置されているような片倉の顔がとても近い。
 軽く唇が重なった。

 片倉が触れてくれている手の感触や、優しく見つめてくれる眼鏡の奥の瞳とか、触れ合っている身体の体温とか、そういうものをひどく近くに感じたし、抑えることのできない自分の胸の高鳴りも浅緋は感じた。

 そうして胸がぎゅっとして、温かい気持ちになってとてもふわふわして幸せな気持ちになったのだ。

「ん?」
 甘くて、よく響く片倉の声がとても近い。

「嬉しい……です」
「そう。じゃあ、もっとしていい?」
「はい」

 だから、浅緋はきっと唇が重なるんだろうと思っていたのだ。

 そう、唇は重なった。最初は。
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