政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 そうして何度も片倉が角度を変えて唇を重ねるから、その度に唇の別の場所に触れ合って何度も片倉を感じてしまう。

「浅緋さん……口、少し開けて?」
──開ける?
 素直に浅緋は口を緩く開けた。

 にこりと笑った片倉が眼鏡を外す。
 綺麗な指が眼鏡を外して胸ポケットに入れるのを浅緋はただ見ていた。

 そうして、その指がゆるりと浅緋の唇に触れたのだ。
 なんだか……今までにない雰囲気だった。

 それは甘いだけではなくて、なんと言うか艶がある、とでも言うのだろうか……。

 ふっと近づいた片倉と、唇が重なって、そして浅緋が開けた口の中に片倉の舌が侵入してくる。

「……っ⁉︎」
 驚いて目を開けてしまうと、大丈夫、と言うように目で微笑まれた。

 緩く舌が絡み合うことにどうしたらいいのか分からなくて戸惑うばかりだ。

 けれど、ゆるりと舌を舐められた時に、ひどく浅緋はどきん、とした。
 顔に、熱が集まる。

 心臓の鼓動の音がどんどん激しくなってきて、耳にはどくんどくん、というその音しか聞こえない。
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