政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 いや、おそらくその意味のほとんどを浅緋は理解していないと思われる。

 そんなことを言っておきながら、無垢な瞳で片倉を見つめてくるのだから、それは分かる。

 しかし、改めて婚約も継続すると浅緋が言っている以上確かに、回避はできないことだ。

「いいんですか? 意味分かって言ってる?」
「あの、正直なにが起こるのかは分かっていないんです。でも、そうしたいんです」

「浅緋さん」
 名前を呼ばれた浅緋は改めて片倉をしっかり見つめた。

 こんな風にこんなに近くで、誰かと見つめ合うことはしたことがなかったけれど、それがとても大好きな人で、婚約者ならそういうこともあるのだと浅緋にも、もう分かったから。

「大事にします」
 片倉の真摯な顔が好きだ。
 それだけではなくて、よく響く声も。

 今までだって大事にされていた。
 それも、浅緋には分かったから。

「はい。あの、慎也さん」
「ん?」
「私も大事にしますから」

 浅緋は片倉にぎゅっと抱きしめられる。
「本当に、あなたって人は……」

 今までは父が守ってくれていた。
 その庇護をなくして、これからは自分で立たなくてはいけない。
< 171 / 263 >

この作品をシェア

pagetop