政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 だから片倉の静かな沈黙はむしろ心地よく、車が自宅近くの見慣れた道にたどり着いた時は、もう少しこのまま走っていてもいいのにと思ったくらいだ。

「到着致しました」
 行きの運転手さんと同じ声で穏やかに到着を告げられた。

「はい。片倉さん、今日はありがとうございました」
 浅緋が車を降りようとすると
「浅緋さん」
と片倉が浅緋を追ってくる。

「はい」
 浅緋の目の前に立つと、本当に背が高くて浅緋は片倉を見上げなくてはいけなかった。

 見上げるほど大きい男性は、浅緋は本当は苦手である。
 そもそも浅緋は年頃の男性との接点がない。
 そんな中、男性であるだけでも苦手なのに、それが背の高い人だと、怖いような気がしてしまうのだ。

 けれど先程触れたその優しさで、浅緋の片倉への印象はとても良いものだったから片倉の事は怖くはない。

「本当は、……お渡しするのを迷ったんですが、受け取って頂けますか?」
 片倉がポケットから出したのは、手の平に乗るくらいの小さな箱。
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