政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 まさか、キスだけのためにプレゼントしている訳ではないと思うが。

「後でいいよ。でもお礼だからね。ちゃんともらうから」
「あの……っ、キスだけのためではない、ですよね?」

「うん。違う。けど、僕は意味のないことはしない」
 眼鏡の奥の理知的な瞳がきらりと光った。

 意味が、あるのだわ。
 キス以外の意味が。

「考えてみて? 浅緋」
 ネックレスをきゅっと握った浅緋はイタズラっぽい顔をする片倉にこくん、と頷いた。



 浅緋と入れ替わりに社長室に入ってきた槙野は、とんでもなく機嫌のいい片倉の姿を見た。

「なんかいいことあったか?」
 応接セットのテーブルの上には、コーヒーが置いてある。

 先ほどお茶をお願いしたが、浅緋が気を遣ってコーヒーを淹れてくれたことは槙野にも分かった。
 それにしても、それだけでこんなに機嫌が良くなるものか?

「ああ。いいことがあったな。浅緋は真面目に仕事していることが分かったし、彼女が真剣に仕事している姿は……家にいる時とは違って、なんか良かったな」
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