政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
シンプルでいながら豪華なロビーには、コンシェルジュが常駐していて、ルームサービスも充実しているようなところだった。

 浅緋はずっと日本家屋の実家暮らしであり、見上げても上の方が見えないようなこんなマンションに、憧れはあったけれど、実際自分が住むことになるとは思わなかった。

「本日からよろしくお願いいたします」
 そう頭を下げた浅緋に、いつものように片倉は優しく笑った。

「ご自分の家と同じように(くつろ)いでくださいね。とは言っても最初は難しいかもしれませんが」
「ありがとうございます」

 まだ数回しか会っていないのだし、多少はぎこちなくても仕方のないことだろう。
 緊張していた浅緋に、片倉は家の中を案内してくれた。

「こちらがリビング、そっちがダイニングとキッチンです。週に二度、お手伝いさんが来てくださるので、部屋の掃除や家事などは任せています」
「あ……」

「あなたはお手伝いさんではないので、そのまま引き続きお願いする予定です。お仕事は辞めても構いませんよ?」

 確かに大した仕事はしていなかったとは思うけれど、浅緋は会社で仕事をすることは嫌いではなかった。
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