政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 どれ……と両手で浅緋の肩を抱き寄せて、片倉が首の辺りに顔を近づける。

 すう……っと息を吸っている気配がして、浅緋は身体がぴくんと揺れてしまった。

 そんな風に自分の匂いを異性に嗅がれたことはないからだ。

「うん。やはり、浅緋に似合う香りだったね」
「ええ。とてもいい香りで、嬉しいです」
「イリスって言うんだって」

 そう言った片倉は、浅緋をベッドに誘導して、また横に座る。

「イリス……」
「ニオイアヤメの根から抽出されるとても希少価値の高い香料らしいよ。けれど、希少価値そのものよりも、この香りが、浅緋に合うだろうと思ったんだ」

 また、近づいた片倉が嬉しそうに、浅緋の香りを嗅いでいる。

 そして、首元にその息がかかって、浅緋はぎゅっと自分の手を強く握ってしまった。
 その上から、片倉がそっと手を添える。

「浅緋、お返しのキスをくれる?」
 そうなのだ。お礼はキスで。
 そう言われているのだった。

 眼鏡を外した片倉が浅緋をじっと見て、柔らかく首を傾げた。
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