政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 大きくなってからは、自由にさせてもらえなくてワンマンで、正直嫌いだと思ったこともあったけれど、愛されていたのだと今なら分かる。

 その父からの最後のプレゼントがあの遺書だったのだ。

──お父様、ご安心くださいね。私、すごくすごく幸せですから。

 浅緋は澄み切った空を見上げて、空にいる父にそう話しかけたのだった。



 着付けを終え、準備を終えた浅緋は、庭に出てゆっくりと一番大きな桜の木に歩み寄る。
 桜は満開の花を咲かせていた。

 浅緋が子供の頃から見守ってくれた木だ。
 浅緋はそっとその木に手を触れた。

 ここで撮った写真の浅緋に惹かれたのだと片倉は言っていた。
 片倉とのことは、父と桜の木が繋いでくれた縁のようにも思える。

 そして、この木の下で二人で一緒にいることを決めた。

 気持ちを伝えあったのもここなのだ。
──いつも見守ってくれてありがとう。
 浅緋はそっと桜の木にお礼を言う。

 その時、ざあっと大きな風が吹いた。
 浅緋は袂をあわてて抑える。
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