政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 風がやんで、浅緋が顔を上げるとそこには和装の片倉がいた。

「浅緋。ここにいたんですね」
「慎也さん……」
 和服姿の片倉もとても素敵だった。

 片倉はそっと浅緋に寄り添う。
「思い出しますね。ここで気持ちを伝えあったこと」

 同じことを考えていたと知って、浅緋は嬉しくなった。
「ええ。それ私も思い出していたところだったんです」

「あの時、浅緋が勇気を出してくれて良かった。婚約を破棄すると言われた時はどうしようかと思ったけれど。あなたは守られるだけの女性ではない。自分の意思をしっかりと持った人です」

「私には意志なんてないのだと、あの時まで思っていました。それを引き出してくださったのは慎也さんです。私が初めて自分で決めたことだったんです」

「破棄して一歩を踏み出すなんて、とんでもなく勇気がいったでしょうに、そんなあなたが可愛くて素敵で……言葉では言い尽くせないくらい愛おしいですよ」

 片倉は浅緋に歩み寄って、そっとその手を取った。

「そろそろお客様も見える頃合いですからね、お迎えに行きましょうか」
「はい」
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