政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 ベッドでのマナーがいいのも、片倉が会ってもいい、と思った理由の一つでもあった。
 付き合っているわけではないけれど、こんな関係になって、数ヶ月経つ。

「はぁい。あいかわらず冷たい。ちょっとは終わった後、イチャイチャしたい、とか思わないのかな?」

「思わない。時間がない」

「時間は重要な資産の一つでこれだけは取り返しがつかない、だっけ?」
 ジャケットを着ようとしていた片倉は思わず、手を止めた。

 それは先日経済誌で取り上げられた片倉の言葉だったからだ。

「読んだのか?」
「一応、これでも真面目に経済のお勉強をしているのでー」

「じゃあ、分かるな?」
「はーい。お忙しい片倉CEOのお時間を無駄にするようなことはしません」
「いい子だ。では、また」

 いつもならそのまま部屋出るけれど、その聞き分けの良さと、(わきま)えたところを褒めるつもりで頬にキスをしようとしたら、肩口を押され、拒否された。

「なんだ、キスはいやなのか?」
「セックスの前戯としてのキスは好き。でもご褒美のキスはいらないわ」
 こういうところは悪くない、と思う。
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