政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 けれど園村から片倉に託すという話がなくなったら、いつか浅緋は別の人のものになるんだろうと言われた時、強くそれは嫌だと思ったのだ。

 それは本当に心から許せないことで、絶対にダメだと思った。

 その後に偶然、病院で浅緋とすれ違った時は、写真なんか目じゃなかった。

 自分に向かって笑いかけてほしい、なんて片倉自身が思えるような人に出会える、なんてことをそもそも想定していなかったのだ。

 独りでも構わない、彼女以外なら。

 そんな風に気持ちが変わるなんて、想像もしていなかった。
 一生手に入ることはないと思ったものが、思いがけなく手に入ったその喜びは、おそらく誰にも分からない。

 誰にも渡したくない独占欲も、燃えるような嫉妬心も相手が浅緋だからなのだ。

 浅緋だけが片倉をこんな気持ちにさせることができる。
 それがどれほどの執着か、なんて浅緋は知らない。

 浅緋は『慎也さんは私に甘いです……』と時折言うけれど、そんなのは当然だ。

 甘くして、散々甘やかして、自分なしではいられないようにしたい、と思っていることを知ったら、浅緋は怖がるんだろうか?
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