政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「ヴァンクリか。意外と地味だな。もっといいやつをねだれば良かったのに。奴ならもっと高いものでも買えるぞ」
 浅緋は指輪をねだった覚えはない。

 片倉が婚約するから、とプレゼントしてくれたのだ。
 だから、地味とも思ったことはない。

 浅緋は取られた手を引いた。
 そうして、その左手薬指をきゅうっと握る。

「あ……なたがどう思おうと勝手ですけど、私には大事な指輪なんです!」

「片倉がどう言ったかは分からないけれど、俺はあなたのことは認めていない」
 認められなくても、仕方ないとは思う。

 実際に浅緋は何も出来なくて、会社のことも顧問弁護士や片倉に任せてしまっている。
 そうして、グループの中でも一番重要な園村ホールディングスでも、できることは何もなくて、ここでこうしているのだ。

 それでもこんな風に認めていない、とはっきり言われるとは思わなかった。
 しかも、片倉が信頼している、と言っていた人物に。

「あなたのことは認めてはいないが、片倉のことは信頼している。片倉に言われたから、この会社のCEOなんてものを引き受けたんだ。任された以上は俺は俺にできることをする」
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