政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 浅緋にできること……。
 浅緋は考えて、そして頭を下げた。

「よろしくお願いいたします」
 今、浅緋にできることはそれだけだ。

 頭を下げ、片倉の信頼する槙野に会社を頼む。それだけしかできない。

 その真っ直ぐな言葉に、一瞬槙野は言葉を失っていたが、浅緋に挑戦的な瞳で笑いかけた。

「分かった。あなたがそうやって言うのなら頼まれてやろう」
 けれど、槙野は浅緋には仕事をほとんど依頼しなかった。

 きっと嫌われているのだと思う。
 それでも、浅緋は構わなかった。
 槙野は仕事は本当に優秀だったから。

 父の元で働いていた人たちの中には、もちろん優秀な人もいたけれど、古参だからと言ってそれにあぐらをかいているような人物もいた。

 槙野はそれを一掃してしまった。
 そうして、優秀でも登用されていなかった人をどんどん登用しているらしい。

 らしい、というのは浅緋はその話を、総務部の同僚から聞いたからだ。
「手腕はね、強引なところもあるけど納得できるってみんなすごく期待してる。それに、すごーくイケメンだわ」
< 33 / 263 >

この作品をシェア

pagetop