政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 気晴らしにランチに行こうと同僚に誘われて、会社近くのイタリアンで美味しいパスタを頂きながら、そんな話になったのだ。

「あんな素敵な人といて、お付き合いしませんかってお話にならないの?」
「あ……」

 浅緋が婚約していることは、会社でも一部の人しか知らないことだった。

「あの……私、実は結婚する人が決まっていて」
「あら、やっぱり?」

 浅緋は首を傾げた。
「やっぱりって?」

「だって、指輪……」
 そう言って、同僚は浅緋の左手をそっと指さす。
 気づかれていた。

「はい」
「お父様のご不幸から時間も経ってないし、きっと言いづらいんだろうねって話してたの」

「すみません」
 やはり早く報告すればよかった、と浅緋は申し訳なく思った。

「仕方ないよ。で、どんな人⁉︎」
 ん……?
 みんな興味深々で、好奇心に輝く瞳で浅緋を見ている。
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