政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 しかも、心臓の音はばくばくと耳元に響いて、顔も熱い。
 緊張で指一本を動かすこともできないのだ。

 少しだったような気もするし、長い時間だったような気もする。
 実際は数秒だったのかも知れなかった。

 以前、浅緋が泣いた時も片倉は抱きしめてくれていたけれど、その時よりはるかにどきどきするのはなぜなんだろうか?

「浅緋さんが、ここにこうしていて下さるだけで僕は十分なんですけどね」
 片倉はどんな時も優しい。

「何か、ありましたか?」
 頭の上から聞こえる声に、浅緋はどきりとした。

 それは胸の高なりなんてものではなくて、見透かされたことによる心臓の鼓動の音だ。

 先日、槙野に『あなたを認めてはいない』と言われたことは、浅緋の心に徐々に重くのしかかってきていた。
 どう考えても、そう言われても仕方がないからだ。

 それでも、この優しい人に心配を掛けたくない。

「いいえ。何も。何も心配なことなんてありません」
 浅緋はそう答えたのだった。
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