政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 池田におそらく悪気はない。
 同期がいてもいないようなものの浅緋に気を使ってくれたのだと思うから。

「岡本くん、彼女はダメよ。婚約しているから。左手薬指見てごらん」
「わー、すごいゴージャスな指輪だね」
「セレブな彼との婚約が決まっているのよ」

「そうだな。だから、こんなところで男と飯なんか食ってるわけにはいかないんだな」
 浅緋の頭の上から降ってきた不機嫌な声の持ち主は、槙野だった。

「社長!」
 その場にいた女性達がはしゃぐ。
 槙野は外向けの笑顔を向けた。

 キリリとしていて整った顔も、品の良いスーツ姿も女性がはしゃぐのには十分な姿だった。

「ご存知の通り大事なお姫様だからね、連れて帰ってもいいかな?」
 ここは奢るからさと槙野は店員を呼んで、皆にはにっこりと魅力的に笑う。

 その場の女性達の目がハートになった。
「いいんですかぁ?」
「もちろん。大事な社員だからね。園村さんは連れて帰るけれど、皆は楽しんで」

 浅緋は槙野にやや強引に肩を抱かれて、その場を後にする。
「園村さんっ! ごめんね、考えなしで」
 池田が顔の前でごめんねっ!と合掌している。
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