政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 浅緋はそれに向かって、なんとか笑顔を返したのだった。
「いえ!こちらこそ、ごめんなさい」

 個室を出た後、浅緋はそっと槙野から距離を置く。
 槙野はむっとしたようだった。

「なんだ、その態度は」
「あの……私、ごめんなさい」

「何に対してのごめんなさい? 今の失礼な態度? それとも、よもやと思って店を探させたら、男を侍らせていた件?」
 槙野の冷ややかな声が、レストランのエントランスに静かに響く。

「っ……侍らせてなんて、ないです。私も知らなかった……っ」

 槙野は腕を組んで浅緋を睥睨(へいげい)していて、とても怒っている雰囲気を感じる。

「あなたは自分の立場が分かっているのか?」
「立場って……」

 何の役にも立たない、ということだろうか。
 それならば浅緋は痛いほどに承知しているし、今も槙野をこんなにも怒らせている。

「どれほど守られているのか、分かっているのかってことだよ」
「えっ?」
 守られている、とは何のことだろうか。
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