政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「園村前社長はああいう輩にあなたを触れさせないよう、近付けないよう、自分の側に置いてた。片倉もあなたの仕事をしたいという意見を尊重して俺の側に置いた。俺は片倉の信用を裏切ることは出来ないからな」

 そんな意図があったとは、浅緋は全く知らなかった。

「俺はあなたが人見知りすると聞いていたから、あまり近づかないようにしていたんだ。」
「近……づかない?」
「苦手なんだろう? 特に男が」

 見透かされていた。
 こくん、と浅緋は頷く。

「片倉は知ってたよ。だから気をつけろと言われていたし、……俺は……あなたを怖がらせるなと散々言われて……」
はぁ……とため息が槙野から聞こえてきた。

「怖がってただろ?」

 確かにその通りなのだが、こんな風にしている槙野はいつもなら狼のようなのに、今は尻尾を垂れた犬のようだ。

 黒いおっきな犬のようだわ……。

 昔は祖父の家だった今の浅緋の自宅だが、浅緋が小さい頃、祖父は庭で大きな犬を飼っていた。

 グレートデンかドーベルマンか子供の頃なので犬種までは覚えていないが、とにかくとても大きな黒い犬で、けれど穏やかな性格の犬だった。
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