政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 いつも怜悧な印象の相貌からは、強い焦りのような表情が浮かんでいた。
 片倉は浅緋を片腕に抱きしめて、逆の手で槙野の手をつかんでいる。

「俺は飼われた覚えはない」
 槙野は軽くその手を振り払っていた。

「そんなに大事ならしまっておけ」
「出来るものならそうしている」

 槙野にも触れられることは怖かったのに、この人の腕だけはどうしてこんなに安心するのだろうか?

「慎也さん」
「浅緋さん、お迎えに来ましたよ」

 その慎也の顔を見て、槙野は心の中で呟く。

──そんなに焦って来るくらいなら、俺の側から離れるなと言って閉じ込めてしまえばいいんだ。
 澄ました顔で理解のあるフリなんかしているからそんなことになる。

「俺はとりあえず、義理は果たしたんで」
「祐輔」

「何だ」
「とりあえず、礼を言う。ありがとう」

「どういたしまして。いつまでも放し飼いしていると、どうなるか分からないぞ」
「飼う気はないからな」
「はいはい」
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