政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 槙野は自分で来ておいて、浅緋をあんな風にあの場から引っ張り出して、片倉にはそんなことを言うなんて、どうなっているのだろうか?

「確かに、こんなやり方は……けど……」
「片倉さん、あの私……っ!」

「違う。そうじゃないと言いましたよね」

 今、この状況で、焦った浅緋はつい苗字で呼んでしまったのだが、強く片倉から否定された。

──怖い……。

 そんな風に思ったことはなかったけれど、今まで片倉がこんな風に強く言ったり、冷たく突き放すような話し方をしたことはないから、浅緋には怖く感じたのだ。

 けれど、浅緋が意図したことではないけれど、片倉を悲しませて、怒らせてしまったことは間違いのないことらしい。

「ごめんなさい……」
「謝るようなことがあったんですか?」

「ありません。けど……かた、慎也さんがそんな風にお怒りになることなんてないもの」
「すみません。怒っているわけじゃない……」

 どうしたらいいんだろう……上手く言えない。

 片倉が浅緋の頬に触れた。
 言葉の強さとは別に、頬に触れる手はやはり大事なものに触れるように優しくて、浅緋は胸がきゅうっとした。
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