政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 ベンチャーやスタートアップ企業にはなかなか経営のノウハウを勉強する機会がない。
 その点、園村は会社を長く経営していて、『経営』というものを理解していた。

 そんな園村と片倉の客先とが、たまに顔を合わせて話をすることで、お互いに得ることがあったと思う。
 園村は若くて、一生懸命な若手オーナーの話を熱心に聞いては、片倉達とは違うアドバイスをしてくれていたのだ。

 それは完全なボランティアであったと思うのだが、園村は
「今、目に見えるものとして返ってこなくていいんだよ。そのうち何かの形で返ってくるよ」
といつも笑っていた。

 片倉達にも得るところの多い人だった。

 そんな園村に片倉が呼び出されたのは、交流が薄くなって何年も経過していた、ごく最近のことだ。

 片倉も自分の会社が大きくなっており、片腕である槙野も成長を遂げていて、園村との接点は盆暮れの挨拶くらいになっていた。

 久しぶりに連絡のあった、園村からの提案は驚くべきものだった。

「君の方で会社の面倒を見てほしい」

 園村ホールディングスは、園村で磐石な経営をしているはずだった。
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