政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 それに片倉の会社はベンチャーキャピタルであり、園村ホールディングスほどの規模の会社はあまり取り扱わない。片倉の会社で扱うには規模が大きすぎるのだ。

 かろうじて上場をしていないところが当てはまるくらいか。
「何を仰っているんです?」

「真剣だよ。検討してほしい」
 さらりとそんなことを言って、会社の資料を置いて行った。

「事情が、あるんだ」
 誰にも内緒だよ、という園村には
「当然です」
と片倉は返した。

 企業買収などの案件は基本的に守秘義務が発生するし、本来ならば機密保持契約書などの文書を交わしてから話を進めるものだ。

 その後園村に呼び出された先が、病院だったのには、片倉はひどく驚いた。
 とても元気な人で身体に何かあるなんて、考えづらい人だったから。

──だからあんなことを言ったのか……。

 そう思うと納得できた。
 聞けば万が一のことを考えて、いろいろと整理を考えているのだと言う。

「俺になにかあったら、君に後を頼みたいな」
「何を仰っているんです」
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