政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 そう言って笑ったけれど、何度か見舞いに訪れるうちに、これはもしかして最悪の事を考えておかなくてはいけないのかもしれないと思うようになった。

「心配なのは会社のことだ」
「園村ホールディングスは磐石なのでは?」
「後継者がいない」
 園村は病室のベッドの上で、きっぱりと言いきった。

「お子さんは……」
「浅緋は、無理だ。俺も娘が可愛くて、箱入りで育ててしまった。あの子は経営のことは何も知らないんだ。あの子には無理だ」

 可愛いぞ、見るか?と言われて、では見せて下さいと言ったのは、社交辞令だった。

 その時、園村が大事そうに見せてくれたのは、桜の木の下で大きく手を広げて、笑顔で写真に写る女性だった。

 桜吹雪が舞い散る中、花の咲くような笑顔で、とても優しげで、明るく、風に長くて緩い髪をふわりとなびかせていたのだ。
 柔らかそうで明るい茶色の髪、透けそうな肌と夢見がちにも見える大きな瞳。微笑む口元も愛らしい。

「可愛いだろう?」
「可愛い……ですね」
 これは箱入りにしても仕方ないと片倉は思う。

 片倉でさえ、つい口元が緩んでしまったくらいに愛らしい人だったから。
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