政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 それは先ほど園村に写真を見せてもらった女性だったからだ。

 浅緋だと、すぐに分かった。

 品の良いベージュのコートとオフホワイトのマフラーを手にして、手に何か包みを持っている。
 看護師に話しかけられて柔らかい笑顔を向けて何か話していた。

 看護師の方も笑顔だったので、関係は良好なのだろうということが分かる。

 そうして浅緋は話していた看護師に頭を下げて、片倉の方に向かって歩いてきた。
 片倉はどくん、どくん、という自分の鼓動を感じる。

 浅緋はベージュピンクのニットと、淡いグレーのチェックのスカートという姿で、ふわりと髪をなびかせ、だんだん近づいてくる。

 つい、片倉は緩やかに頭を下げてしまった。
 浅緋にしてみれば見知らぬ人から頭を下げられたのだから、戸惑ってもよさそうなものだが、彼女はそういうことにも慣れているのか、口元に笑みを浮かべて軽く会釈を返してきた。

 関連会社の人間かと思ったのかもしれないし、同じように見舞いに来た人間だと思ったのかもしれない。
 それでも怪訝な顔をするわけでもなく、笑顔で会釈を返してくれた姿が目に焼き付いた。
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