政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「結婚しろ、とは書かない。けれど、そう解釈しても構わないように書いた。あとは君の裁量に任せる」
 その時、その手紙を片倉の目の前で封をし、園村は真っ直ぐに片倉を見たのだ。

 そうして、それから程なくして、園村が鬼籍に入った……と片倉は聞いた。
 一瞬、片倉は信じられなかった。

 雪の降りしきる中の葬儀は盛大なものだった。
 園村の人格を表すかのように、たくさんの人がお別れに押し寄せていた。

 それを、片倉は少し離れたところからそっと見ていたのだ。
 参列客に頭を下げる母娘の姿は痛々しくもあった。

 しかし「喪服と言うのはたまらないものですね」と下世話な会話が耳に入るに至っては、こうしてはいられない、という焦りにも似た気持ちになったことは間違いがなかった。

 園村から預かった『遺書』はカバンの中に常に入っていた。
 もちろんその時も。
 浅緋が幸せになれるのならば、無理に事を進めるつもりはなかった。

 けれど、一度手を離れてしまったら守りたくても、守れない。

 一瞬の迷いが判断を誤ることがある、と片倉は知っている。
 迷っても決断すべきことがあるのだ。
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