政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 浅緋は待合の引き戸を開けるために、上がり框を降りた。
 隣に立つと、この人の身長の高さがよく分かる。

 浅緋はからから、と引き戸を開けた。
「どうぞ。あの……狭いですけど」
「恐れ入ります」
 彼は浅緋に柔らかな笑顔を向けてくれる。

 中に入ると、母がすでに中から待合に移動し、小さなストーブに火を入れているのが見えた。

「お構いなく。すぐにお(いとま)しますので」
「でも冷えますから」
「かえってご面倒をお掛けして本当に申し訳ないです」

 とても気遣いのできる人なんだな、と浅緋は感じた。
 澄子さんが予備の椅子を用意してくれたので、3人で椅子に腰掛ける。

「片倉さん……とおっしゃるのね」
 先程の名刺を母が確認している。
「はい。片倉慎也(かたくらしんや)と申します」

「こちらは主人があなたにお渡ししたもの、ということでしょうか?」
母は澄子さんが預かった封筒を、手元に取り出す。
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