政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 自分は浅緋が欲しい。
 だから自分の判断は信用できない。

 欲しいから、目が曇っている可能性があるから。
 けれど、園村の判断は信用する。

 それが死の間際のものであったのなら、なおさら。

──浅緋さん、ごめんなさい。俺は今からあなたを奪う。

 浅緋はきっとあの遺書を読んだら従うだろう。
 大事に、しますから。

 雪の中の喪服に身を包んだ浅緋は、綺麗と言うよりも()けて消えてしまいそうで、彼女を守りたいという片倉の気持ちをさらに強くさせるようなものだった。

 片倉はその後運転手に頼んで、園村家に向かう。
 おそらく、今日の今日訪れるような人物はいない、と踏んだ。

 自分が図々しいことも分かっている。
 それでも後手に回って後悔するようなことはしたくなかった。

 運転手には少し離れたところに車を停めてもらうように依頼した。

 まさか主人が亡くなったばかりの、女性だけのお屋敷の目前まで車を乗りつけるわけにはいかない。
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