政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「申し訳ない。急で」
『いいえ。大事な方なんですね?』

 片倉自身が女性の送迎に渡辺を使うことはない、と彼は知っている。長年一緒だからその察しの良さは助かる。

 それにこれからも、浅緋と渡辺は接点があるはずだから。

「はい。そうなんです。よろしくお願いします」
『お任せください』

 そう言ってくれた渡辺に、片倉は安心して受話器を置いた。

 今回予約した店は、園村の奥さんにアドバイスをもらって予約をしたものだ。

 そうして、カバンの中から小さな箱を取り出した片倉はケースを開ける。
 散々迷った末に、購入したものだ。
 キラリと光る指輪がケースの中にそっと置かれている。

──もしも今日の会食が上手くいったら、浅緋に渡そう。
 片倉はそう決めて、そのケースの蓋を閉める。

 取引先はごねた割には、片倉が話をするとすんなりと了承して、要するに上を出せと言わずにはいられない人種なのだと納得した。
 だから片倉の会社が入るようなことになるんだと思いつつ、釘はさしておきたい。
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