政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「まだ、いろいろおつらいですか? お食事できそうですか?」

「いえ。あの、父のことは大丈夫なんです。その……もともと入院期間もありましたし、その分覚悟もしていたので。ただ……たまにまだ父が生きていて会社に行っているだけのような、病院に行けば会えるんじゃないかって思ったりすることは、ありますけど……」

「それは……」
 聞いた片倉の方が言葉を失う。

 それは、まだ受け止めきれていない、ということなんじゃないだろうか。

「つらいですね」
「そうなのかしら」
 少し淡白な様子の浅緋の事が、逆に片倉は心配になった。

「浅緋さん、泣きましたか?」
「え?」
 園村は浅緋のことをとても大切に思っていた。
 片倉はそれを知っている。

 奥さんは浅緋はどう思っているか分からないけれど、と言っていたのだ。

 こんなことでも慰めになれば、と片倉は園村から聞いた桜の話をした。
 
 そのエピソードは微笑ましくて、聞いていた時片倉も可愛らしくて笑ってしまって、さらに浅緋を愛おしく思ったエピソードだ。

 そんなことを……と言っていた浅緋だったが、急にぽろぽろっと涙を零し始めた。
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