僕惚れ③『家族が増えました』
 理人(りひと)葵咲(きさき)の凶悪な一撃に、思わず顔を(おお)ってクスクスと笑った。

 それはやめておこう、とさっき決めたばかりなのだ。思わず「だったら……」と葵咲の口を割りたくなるのをグッと(こら)えて、理人は葵咲の唇に軽い口づけを落とす。

「いや、今日は……すぐにでもキミの中に挿入(はい)りたいから……それはまた次の機会にお願いしようかな? 葵咲だってこれ以上お預けを食らうのは嫌だろう?」

 問えば、葵咲がコクン、と小さくうなずいた――。


 理人はソファ横に置いてあるテーブルの引き出しからスキンをひとつ手に取ると、葵咲を見下ろしながら封を切った。

 理人の手の中のゴムを見た葵咲が、この先に起こることを想像したのか、頬を赤く染めて視線を逸らす。

 理人はそんな葵咲を心底愛しいと思った。求めれば理人の想像以上に応えてくれるくせに、基本的に――スイッチが入らない限り――葵咲はずっと(うぶ)なままだ。

 気が強いくせに色恋の話になると途端弱気で。そのギャップが理人を刺激する。

 中身を手に持って裏表を確認して自身にあてがうと、理人は恥じらって顔を横向けている葵咲を自分の方に向かせて優しく口付けた。

 うっとりと理人の求めに応じて唇を薄く開く葵咲に、理人は彼女の期待通り口中に舌を差し入れてやる。

 葵咲の、美しく並んだ歯列を優しく舌先でなぞってから、上顎(うわあご)の裏をくすぐるように舐める。

 それに、一瞬びくっと身を(すく)めた葵咲が、さらに深く求めるように理人の舌に自らの舌を絡めてきて。
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