僕惚れ③『家族が増えました』
出来れば視線が絡んだことは水に流してもらえますように。
そう思った葵咲の願いも虚しく、その男は葵咲が後ずさった以上の距離を一気に詰めてきて――。
「――おい、アンタ」
不機嫌そうな声音で声をかけられた葵咲は、
「わわわわ、ごめんなさいっ! 私っ、こっ、こっ、婚約者がいるんですっ! 食べてもきっと、美味しくありません!」
言って、身体を守るように丸まって地べたに座り込んだ。すると、上から「はぁっ?」という心外そうな声が降ってくる。
「……俺だって恋人いんだけど?」
次いでため息まじりに告げられたその声に、恐る恐る視線をあげると、
「なぁ、アンタ、まさか俺が誰だか気付いてないわけ?」
なんだよ、分かって見てきてたんじゃねぇのかよ、と半ば呆れたように付け加えられてしまう。
「え? 誰だか……って……」
そこでようやくノソノソと立ち上がって眼前の男の顔をじっと覗き見た葵咲は、ハッとして息を呑む。
「あっ! ――お隣さんっ!」
よく見れば、理人よりほんの少し背の高いその男は、マンションの隣室の住人――山端逸樹――だった。
「や、山……端……さん、でしたっけ?」
「ああ……。やっと思い出したか」
逸樹は葵咲を、半ば呆れたように冷ややかな目で見下ろすと、「アンタは…….丸山葵咲だったか」と、こともなげに葵咲のフルネームを言う。
そう思った葵咲の願いも虚しく、その男は葵咲が後ずさった以上の距離を一気に詰めてきて――。
「――おい、アンタ」
不機嫌そうな声音で声をかけられた葵咲は、
「わわわわ、ごめんなさいっ! 私っ、こっ、こっ、婚約者がいるんですっ! 食べてもきっと、美味しくありません!」
言って、身体を守るように丸まって地べたに座り込んだ。すると、上から「はぁっ?」という心外そうな声が降ってくる。
「……俺だって恋人いんだけど?」
次いでため息まじりに告げられたその声に、恐る恐る視線をあげると、
「なぁ、アンタ、まさか俺が誰だか気付いてないわけ?」
なんだよ、分かって見てきてたんじゃねぇのかよ、と半ば呆れたように付け加えられてしまう。
「え? 誰だか……って……」
そこでようやくノソノソと立ち上がって眼前の男の顔をじっと覗き見た葵咲は、ハッとして息を呑む。
「あっ! ――お隣さんっ!」
よく見れば、理人よりほんの少し背の高いその男は、マンションの隣室の住人――山端逸樹――だった。
「や、山……端……さん、でしたっけ?」
「ああ……。やっと思い出したか」
逸樹は葵咲を、半ば呆れたように冷ややかな目で見下ろすと、「アンタは…….丸山葵咲だったか」と、こともなげに葵咲のフルネームを言う。