僕惚れ③『家族が増えました』
***
「――い、イヤッ!」
なんの前触れもなく強引に手を取られて驚いた葵咲が、足を踏ん張って思いっきり抵抗をしたら、「取って食おうってわけじゃねぇよ。いいから黙ってついて来いって!」とか、どれだけ横暴なんだろう。
どうあっても力では敵いそうにない相手なだけに、こんなふうに無理矢理こられたら葵咲にはなす術がない。あまりの怖さに、葵咲は涙目になってしまった。
と、突然背後からバイクのエンジン音と、急ブレーキをかける音が聞こえてきて。
ついで「ちょっ、逸樹さん! 何やってんだよ!」という若い男性の声がした。
その途端、今まで葵咲の腕を痛いくらい掴んで離さなかった逸樹の手が、ビクッとなって呆気なく離れる。
思いっきり抵抗をしていたこともあって、その反動で盛大な尻餅をついてしまった葵咲に、「すみませんっ! 大丈夫ですか?」と慌てた声がかかる。
地べたにへたり込んだまま、葵咲が声のした方へ視線を向けると、ヘルメットを被ったままの青年が駆け寄ってくるところだった。
彼の登場と同時に、あれほど傍若無人で、まるで俺様が作業服を着て歩いているような印象だった逸樹が、借りてきた猫のように大人しくなってしまった。
それが、葵咲には不思議で堪らない。
(この青年は一体何者なんだろう?)
逸樹のことを下の名前で呼ぶような、親しい間柄の人物のようではあるけれど、それ以上の何かがあるようにも思えて、葵咲はお尻を地面に打ち付けた痛みも忘れて、二人を交互に見比べた。
「――い、イヤッ!」
なんの前触れもなく強引に手を取られて驚いた葵咲が、足を踏ん張って思いっきり抵抗をしたら、「取って食おうってわけじゃねぇよ。いいから黙ってついて来いって!」とか、どれだけ横暴なんだろう。
どうあっても力では敵いそうにない相手なだけに、こんなふうに無理矢理こられたら葵咲にはなす術がない。あまりの怖さに、葵咲は涙目になってしまった。
と、突然背後からバイクのエンジン音と、急ブレーキをかける音が聞こえてきて。
ついで「ちょっ、逸樹さん! 何やってんだよ!」という若い男性の声がした。
その途端、今まで葵咲の腕を痛いくらい掴んで離さなかった逸樹の手が、ビクッとなって呆気なく離れる。
思いっきり抵抗をしていたこともあって、その反動で盛大な尻餅をついてしまった葵咲に、「すみませんっ! 大丈夫ですか?」と慌てた声がかかる。
地べたにへたり込んだまま、葵咲が声のした方へ視線を向けると、ヘルメットを被ったままの青年が駆け寄ってくるところだった。
彼の登場と同時に、あれほど傍若無人で、まるで俺様が作業服を着て歩いているような印象だった逸樹が、借りてきた猫のように大人しくなってしまった。
それが、葵咲には不思議で堪らない。
(この青年は一体何者なんだろう?)
逸樹のことを下の名前で呼ぶような、親しい間柄の人物のようではあるけれど、それ以上の何かがあるようにも思えて、葵咲はお尻を地面に打ち付けた痛みも忘れて、二人を交互に見比べた。