僕惚れ③『家族が増えました』
「あ、あの……」
 二人のやりとりを黙って聞いていた葵咲(きさき)だったけれど、直人(なおひと)が自分を見てくれたタイミングで、思わず声をかけてしまった。

(話の腰を折ってごめんなさいっ。けど私、レポートに早く取り掛かりたいの)

 そのことが気になって仕方のない葵咲である。
 理人(りひと)が帰ってくるまでに仕上げておかないと、絶対集中できなくなるのは目に見えているから。

 葵咲だって、理人が帰ってきたら一緒に過ごしたい。毎日するのはしんどいと思いながらも、じゃあイチャイチャしたくないか?と聞かれたら答えは(いな)で。

 十六時を過ぎた今、理人の帰宅まで三時間を切っているのだ。

 何ていうか……葵咲にとっては膠着(こうちゃく)状態みたいに思える現状が、非常に嬉しくなくて。

「さっき、山端(やまは)さんはどうして私の手をあんな強引に引っ張ったんですか? 何か見せたいものでもあったのでしょうか?」

 となれば、話を本筋に戻して、一刻も早くこのドタバタ劇から解放されたい。

 そう思った葵咲は、直人の前でしどろもどろになっている逸樹(いつき)に、先程の言動の真意を問うことにした。


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