僕惚れ③『家族が増えました』
 実は尻餅をついたお尻よりも、逸樹に掴まれた腕の方がじんじんしている。でも、それは裏を返せば彼の必死さの現れでもあったと思う。

 直人が一緒ならば、さっきみたいな無茶はされないと思ったからこそ、葵咲は聞いてみることができた。
 何だかよくわからないけれど、先程の逸樹の言葉を借りるならば、この二人、主導権を握っているのは間違いなく直人だ。

 葵咲が、先の質問の返事を待って逸樹をじっと見つめると、逸樹は直人の様子を一瞬うかがってから、気怠(けだる)げに口を開いた。

「軽トラ……」

 それだけ言って、逸樹が視線を向けた先には、さっき彼が降りてきた軽トラが停まっていて。

「え?」

 意味が分からなくて思わず聞き返したら、直人が口を開いた。

「だから……それじゃ何も伝わんないって、逸樹さん」

 ムスッとして軽トラのほうに(あご)をしゃくる逸樹の肩をポンと軽く叩くと、「ね、あれに乗っけたままってこと?」と指さす。

 そんな直人に逸樹がうなずいて。

 葵咲は、何が乗っているんだろう?と二人の視線の先を追った。
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