僕惚れ③『家族が増えました』
 葵咲(きさき)が玄関を開けるより先に彼女の背後に立つと、理人(りひと)は扉が開くのを、無言で見つめる。

 会えば一応にこやかに応対するつもりではあるけれど、早々にお引き取りいただこう、とか思っていたりする。

(この子)が無事なことを見せればすぐに帰るだろう)

 我ながら了見が狭いなと思うけれど、葵咲が絡むと理人は大体こんな感じだ。

「こんばんは」
 葵咲がドアを開けると同時に、人好きのする好青年が姿を現した。

 その後ろに、ムスッとした表情で隣の住人が立っている。

「丸山さん、すみません。なんか押し付けたみたいになっちゃって」

 三木と名乗った青年が、馴れ馴れしくも葵咲の苗字を呼んでくるのが気に入らないが、まぁそこはそれ「葵咲さん」とか「葵咲ちゃん」じゃないだけマシだと、理人は自分に言い聞かせた。

 でも、何となく葵咲と青年との距離が近い気がして、理人は葵咲の前にさりげなく割り込んだ。
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