僕惚れ③『家族が増えました』
葵咲(きさき)、要らないタオルとかあったっけ?」

 聞けば、「洗面所の棚の中から古そうなの、使って? 新しいの、たくさんストックしてあるから大丈夫だよー」と返る。

 こんなやりとりですら、何だか新婚さんみたいでいいな、と思って理人(りひと)は思わずニヤニヤしてしまう。絶対、葵咲ちゃんはいい奥さんになると確信して、僕は何て幸せ者なんだろう、と思った。

(まぁ、葵咲ちゃんならそこにいてくれるだけで、僕は大満足なんだけど)

 何もしてくれなくてもいい。ただそばにいてくれるだけで理人はこの上なく幸せなのだ。
 そんなふうに思える相手は、葵咲以外にはいない。

 洗面所から一番くたびれていそうなタオルを取ってくると、理人はそれをセレのトイレ前に折りたたんで置いた。

 簡易的措置ではあるけれど、トイレの前に一段、ステップができた。これで小さなセレでも余裕で入れるようになったはずだ。

 トイレをコンテナ内に入れてしまったことでほんの少し高さができてしまった入り口だったけれど、これで恐らく問題はない。

 様子を見ながらまた少し調節すればいいか、と思いながら理人はセレを抱いたままソファに戻ってきた。

「理人はとりあえず洗面所に戻ってドライヤーで頭乾かしてくる! セレはこっち」

 途端、葵咲にセレを取り上げられてしまった。

「葵咲ぃ〜」
 甘えた声を出してみたけれど、ダメだった。

 理人は、葵咲のこういうしっかりしているところも好きだから、結局はデレデレしながら洗面所へ向かったのだけれども――。
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